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2018.03.26

真の"インフルエンサー"とは何か? バルセロナにハッカーが集うフェス The Influencers(前編)

TEXT BY SAKI HIBINO

真の"インフルエンサー"とは何か? SNSでいいね数を稼ぐだけが"インフルエンサー"なのか? 結果、企業の広告塔になるのが"インフルエンサー"か?

バルセロナを拠点に10年以上続くフェスティバル「The Influencers」は、人々に影響を与え、社会を揺るがすパワーをもつ"インフルエンサー"=ソーシャル・ハッカーたちを奨励する。ここでは、挑発的で創造的なアーティストやハクティビスト、研究者たちの事例をいち早く取り上げ、社会に議論を巻き起こすプラットフォームを創出し続けている。日本初の紹介レポート前編。

始まりは90年代後半、ネットアート・ムーブメントからだった

2004年の開催以来、毎年The Influencersは、クレイジーで先見性のある芸術家、ハクティビスト、研究者をスピーカーとして招待し、音・映像・ゲーム・インターネット・AIやバイオテクノロジーなど様々なメディアを駆使して、現代の政治・経済・身体・都市環境・ネットワークへとユニークな介入を試みたプロジェクトを紹介してきた。

一般の慣習に囚われない型破りなアート、ゲリラのコミュニケーション、ラディカルエンターテインメントにフォーカスしたこのフェスティバル。マルチ・トゥルースとソーシャル・メディアのリアリズム時代における科学技術の重要性・美学そしてネットワーク化された情報社会が引き起こす政治的影響への議論を喚起するソースを提供し続けている。

過去のスピーカーのラインナップを見ても、その挑戦具合がわかるだろう。

1. 元ハッカーのAram bartholl(アラム・バートル)
オンライン/オフラインを交差するリアリティをテーマに作品を作り続ける。2017年のミュンスター彫刻プロジェクトで、発電機のついたスティックをキャンプファイヤーに投入し、携帯電話の充電に活用する《5V》 他3作品を発表。

2. Paolo Cirio(パオロ・キリオ)
広告サービスから得た利益をもとにその企業の株を買い占める『GWEI―Google Will Eat Itself』で有名なネットアートのパイオニアの一人。

3. 日本からはアート集団Chim↑Pom  が参加。
メンバーのエリイがアメリカへの入国規制に遭いながらも、「ボーダー」をテーマにアメリカとメキシコの国境沿いで制作したアートプロジェクトなどが高く評価された。

そんな先見の明を持つThe Influencersは、2000年9月にイタリアのボローニャで開始された 「Digital Is Not Analog」というカンファレンスに端を発している。

2000年といえば、当時のヨーロッパでは、というか全世界で、インターネット上の誇大広告が有効な力を持ち、商業的なWebサイトが急増、IT関連のベンチャーが多数設立された時期だ。伴って株価が異常に上昇するインターネット・バブルが起こり過熱が続いた。

そして、インターネットの普及はアートの世界にもネットアートと呼ばれるムーブメントを巻き起こすこととなる。誰でも介入できるメディアとしてのインターネットの可能性に注目したデザイナー、アーティスト、ハッカー、ミュージシャンらは、Webブラウザやコード、ハッキングなど、インターネットならではの要素を使った表現を追い求め、作品を作り始めた。The InfluencersのオーガナイザーであるEva & Franco Mattes(エヴァ&フランコ・マテス)はまさに当時を代表するネットアート界の先駆者の一人である。

しかもその手法は、他人のサイトを丸々コピーしたり、架空のアーティストを創造したりといった、ネットを使ってハッキング的なプロジェクトを行う過激なもので知られている。彼らを筆頭に、Webサイトの構造自体を組み替えたり、時にはコンピュータ自体を停止させてしまうなどのスリリングな要素を含むネットアートの多様な表現は、社会的に多くの論争を巻き起こした。

Eva & Franco Mattes『Copies』(1999) net.artの先駆者の一人JodiのWebサイト を完全にコピーした作品。

バルセロナのメディアアートの新しい領域の開拓にも貢献し、The Influencersのオーガナイザーである、キュレーターのBani Brusadin(バニ・ブルサヂィン)、net.artの先駆者Eva & Franco Mattes(エヴァ&フランコ・マテス) にインタビューを行った。

「当時のインターネット・バブルや商業的なインターネットの世界が盛り上がりを見せた裏で、もっと面白くて純粋なものが生まれ始めていた。それがいわゆる「net.art」(ネットアート)と呼ばれるムーブメントで、主に"タクティカル・メディア"を扱うアーティストやアクティビストが創り出したカラフルなシーンだった。Digital is Not Analogフェスティバルは、それらのシーンの中で最高に挑発的で、かつ創造的な事例を紹介するために生まれた。

僕らにとっては、この90年代後半のインターネット文化とサブカルチャーがどう繁栄していったのかというテーマの方が、はるかに重要で興味深かったからね。Digital is Not Analogは発展を遂げて、2004年にはバルセロナでThe Influencersフェスティバルの第一回目を開催したんだけど、僕らはDigital is Not Analogのコンセプトを模倣するだけでなく、技術的で政治色が強いネットアートのアプローチが、皮肉や悪ふざけ、ゲリラ的なコミュニケーションの歴史とどのように関連しているかを示すために、アナログとデジタルを更に混ぜ合わさせたイベントを作り上げようと決めていた。

The Influensersっていうフェスティバル名も、アイロニカルでしょ(笑)。その新しいミックスが多分、新世代の無邪気でハチャメチャなアーティストやハッカー、アクティビストの創作を掻き立てたんじゃないかな」

THE YES MEN at The Influencers

「特に、2004年から2008年の間のThe Influencersの歴史を遡ると、THE YES MENVuk ĆosićEDDO STERN やMarko Peljhan といったネットアートやタクティカルメディアのパイオニアたちの実例を見ることができるよ。」

マルチ・トゥルース(複数の真実)がはびこる時代、
科学技術の重要性と美学とは何か?

The Influencersのプログラムはスピーカーによるトークをはじめ、多様なテーマを扱うワークショップやエキシビションが開催される。2017年度は10月に開催され、3日間に渡り、9名のアーティスト、アクティビスト、研究者がスピーカーとして登壇した。

 
あわれな自動運転車の末路

中でも特に興味深かったのは、アルスエレクトロニカ、文化庁メディアアートフェスティバル、CERN COLLIDEなどで賞を受賞し、2015年にはWIREDが選ぶ「ヨーロッパで最も影響力のある100人」にも選ばれた経歴を持つイギリス人アーティスト、James Bridle(ジェームズ・ブライドル)のセッションだった。彼の専門領域は、コンピュータサイエンス、認知科学、AIであり、現在はアーティストにとどまらず、ライター、理論家として活躍している。

James Bridle at The Influencers

彼は自身の新作であるAIによる自動運転車を用いたプロジェクト『Autonomous Trap』を通し、道路交通ルールにおいての人間とマシーンの知覚限界をテストし、コンピューテーション時代における新しい神話や詩の可能性について語った。テスラやGoodgle、VMは、興味深い科学技術を用いて自動運転車を開発しているが、そんなものに興味がないという前置きから「塩の儀式」と称された自動運転車テストの事例を紹介。

塩で描かれた外側が破線、内側が実線の二重の円を自動運転車が通過しようとする。道路交通のルールでは、車は破線を超えられるが、実線を超えることはできないため、魔法の円に入ったら最後。自動車メーカが車を回収しにくるか、誰かがその円を壊すか、もしくはAIの制御権を破壊するまで車は外に出ることができない。

これははるか昔、精霊や鬼の召喚のために塩を用いてシンボルを描き、秘密の言葉をやりとりしたという儀式から着想を得たこの単純なトラップだ。科学技術を用いた神話=システムを欺くために、意図的に設計されたテストケースから予期せぬ例外的なストーリーが生まれる。その行為は一見ただのイタズラのように見えて、未来に起こりうる最悪のシナリオを回避できる手段にもなりうると彼は説く。

言語統制の厳しい中国で、失われたメッセージをファッション化させる
Amy Suo Wu at The Influencers

中国で生まれ、オーストラリアで育ち、オランダに拠点を置くAmy Suo Wuは、言語、技術、メディアが人々をどのように形づくっているかを研究するアーティストおよびデザイナー。近年、彼女が取り組んでいるステガノグラフィーのファッションZINEプロジェクト『Thunderclap』を紹介。

『Thunderclap』

ステガノグラフィーとはデータ隠蔽技術の一つであり、データを他のデータに埋め込む技術のことである。メッセージの内容を読めなくさせる手段を提供するクリプトグラフィーに対して、ステガノグラフィーは存在自体を隠す点が異なる。特に言語統制が厳しい中国では、ステガノグラフィーの活用は一般的である

Amyは、冷戦下に目に見えないインクが用いられたというアナログなステガノグラフィーの手法と、明らかに意味がおかしい日本語や中国語のTシャツやタトゥーなどを欧米人がファッションとして身につけるムーブメントを結びつけた。現在の中国では消し去られた20世紀初頭の中国で活動していたフェミニストやアナーキストたちの言葉をファッションアクセサリーというデバイスに埋め込み、パブリックの場に布教する活動を行なっている。 

Nora Al-Badri & Nikolai Nelles
歴史的鏡像の3Dデータをハック

ドイツ人アーティストのNora Al-Badri & Nikolai Nelles (ノーラ・アル=バドリ & ジャン・ニコライ・ネレス)は、2016年にベルリン新美術館へKinectを隠して持ち込み、「ネフェルティティの胸像」を3Dスキャン、そのスキャンデータ”The Other Nefertiti”を全世界へ公開するというプロジェクトを紹介した。

その後、かつて「ネフェルティティの胸像」が発見されたエジプトで3Dプリントした複製物”The Other Nefertiti”を展示した。 100年以上前に彫刻が掘られ盗まれて以来初めて、精巧な人工物がカイロに戻るという事実から、データの漏洩から生み出された人工物がドイツの植民地時代の概念を克服する一つのメタファーになることを示唆。

The Other Nefertiti

しかしこのデータに対しては一部の専門家から「Kinectでは胸像の完璧なコピーを作ることはできず、公開されているスキャンデータは捏造である」という指摘も沸き起こっているため、まさに疑惑のプロジェクトとなっている。

あなたもハッカーになれる
TACTICS AND POETICS OF INVISIBILITY WORKSHOP by Amy Suo Wu

ワークショッププログラムも充実していた。スピーカーとしても登壇したAmy Suo Wuによる「TACTICS AND POETICS OF INVISIBILITY」ワークショップでは、不可視インクやステガノグラフィの歴史と基本的な理論を学びながら、ミルク、レモン汁、デンプン、ベーキングソーダ、唾液などを用いて、さまざまな種類の不可視インクの作成、有効な適用ケースを実験できる。

A CRITICAL ENGINEERING WORKSHOP by Danja Vasiliev

Critical Engineeringのメンバーの一人、ロシア人アーティストのDanja Vasiliev(ダンニャ・バシリエフ)による「A CRITICAL ENGINEERING WORKSHOP」 。

Critical Engineeringは日本でもメディア芸術祭で賞をとった『Men in Grey』という作品や、アルスエレクトロニカでもゴールデニカを受賞した『Newstweek』で知られる、著名なアーティスト。

「クラウド」の不信が増大するにつれて、公的に所有されているネットワークインフラが広く求められているという現状を踏まえ、2日間のワークショップでは、既存のデータプライバシーとインフラの集中化に関する問題や、参加者が自ら所有するサーバーを設定し、ユーザーが個人的なコミュニケーション、データ、アイデンティティをより詳細に制御できるシステムのプロセスを学ぶことができる。

Hasan Elahi
Unknown Fields Division

The Influencersのネットアートや話題のデジタルメディアの常識を覆すような斬新な手法に対する早期関心は、スリリングでありながらも、正当にはほとんど認められていないアーティストやアクティヴィストによるものだ。フェスティバルは2004年以降、彼らのシーンが驚くべきものであることをを証明し続け、発展を遂げてきた。

「この10年間で、そのシーンはますます浸透し、合法的になってきた。僕たちの謙虚な貢献のおかげもあったと思いたいけどね(笑)。しかし、グローバル規模で起こる科学技術的、文化的、社会経済的な変化は、創造的実践そのものの急速な進化を促している。また、そういった変化に伴い、ますますコネクティングされていく世界の中で情報、技術、戦略を共有する新しい方法が求められている

そのため、ここ5年間のフェスティバルにおけるアーティストのプロジェクトや研究者のリサーチは、マルチ・トゥルースとソーシャル・メディアのリアリズム時代におけるイメージとフィクションの権力の崩壊について主張しているだけではなく、科学技術の重要性、美学、大量の監視社会が引き起こす政治的影響について議論するソースを提供し続けていると思うよ」

後編に続く)

CREDIT

Saki.hibino
TEXT BY SAKI HIBINO
ベルリン在住のエクスペリエンスデザイナー、プロジェクトマネージャー、ライター。Hasso-Plattner-Institut Design Thinking修了。デザイン・IT業界を経て、LINEにてエクペリエンスデザイナーとして勤務後、2017年に渡独。現在は、企画・ディレクション、プロジェクトマネージメント・執筆・コーディネーターなどとして、国境・領域を超え、様々なプロジェクトに携わる。愛する分野は、アート・音楽・身体表現などのカルチャー領域、デザイン、イノベーション領域。テクノロジーを掛け合わせた文化や都市形成に関心あり。プロの手相観としての顔も持つ。

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