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2018.04.18
バイオハックでヒトの手を再現。新たな生命観を問うアーティスト、エイミー・カールに西村真里子が直撃
TEXT BY MARIKO NISHIMURA
作品名『Regenerative Reliquary(再生可能な聖遺物)』でYouFab Global Creative Award 2017グランプリを受賞したバイオアーティスト、エイミー・カール。サンフランシスコ在住のエイミーの来日にあたって、テクノロジーとクリエイティブをつなぐHEART CATCH代表の西村真里子がインタビュー。パワフルに異領域を駆け回る2人の対話から見えてきた、バイオ時代の新たな生命観とは?
エイミー・カール
人間の身体や身体機能の拡張を、テクノロジーを通して表現するバイオアーティスト。アルフレッド大学とコーネル大学でアート&デザインと哲学の学位を取得。テクノロジーを駆使した展覧会を行う企業、コンセプチュアル アート テクノロジーズ(CONCEPTUAL ART TECHNOLOGIES)を共同設立し、世界中で展覧会を開催する。医療、テクノロジー分野で特許を取得している他、「3Dプリント業界で最も影響力をもつ女性」に選ばれる。バイオアートの先駆者として、アートを制作する過程で医療と心身医学に貢献することを目標に活動を続けている。
https://www.amykarle.com/
西村真里子
HEART CATCH Inc. 代表 / テクノロジー×デザイン×マーケティングを強みにプロデュース業や執筆業を行う。孫泰蔵氏率いるコレクティブ・インパクト・コミュニティーMistletoeメンバー。
http://heartcatch.me/
エイミーに聞きたいことはたくさんある。
どういう意図を持ってバイオ培養ハンドを作るに至ったのか?
少々グロテスクな作品を作り上げた女性はどのような思考の人間なのか?
『REGENERATIVE RELIQUARY(再生可能な聖遺物)』Amy Karle
(YouFab2017グランプリ受賞作品)
3Dプリンターとヒトの幹細胞から人間の手の骨を再現した作品。PEGDAハイドロゲルを素材に3Dプリントした手の骨格に、ヒトの間葉幹細胞を植え付け育成する。無機質の物体から生命の可能性を描き出すことを目指した本作品は、生命の神秘に対しての問いを投げかける。
一方で、免疫反応のリスクを抑え、細胞移植を可能にする再生医療からも着想を得た本作品は、生体素材とFABの融合を象徴的に示したとともに、モノづくりのプロセスがバイオハッキングや合成生物学の領域へと移行していくことを示唆している。
最初に巻き起こる感情が、アートの言語
日差し柔らかな初春の丸の内のギャラリーにグランプリとして鎮座する”聖遺物”は黄色く妖艶な光を放ち、耳を澄ますと呼吸が聞こえてきそうである。はじめて対峙するミステリアスな作品に自分のなかで複雑な感情が沸き起こった。その感情を読み解こうと内省しかけた私の前に、ハツラツとした笑顔のエイミーが現れた。作品とのコントラストが眩しい真っ赤な口紅と発せられる言葉からも、生きるパワーに溢れるアーティストだとわかる。
早速取材をしようと考える私にエイミーはそんなに焦らなくて大丈夫よ、というように「まずは作品を見ましょう」と作品の前に私を連れて行く。そして、彼女がインタビュアーになって私にたずねてきた。「この作品についてどう感じるか?教えてほしいの」と。
取材前にエイミーの作品と動画は見てきた。それが現在注目されているデジタルファブリケーション、バイオアートの領域で注目されていることはもちろん調べてきた。ただ、実際の作品を目の前にすると全く別の感情が生まれてくる。取材前に作品に対峙した時にも生まれた複雑な感情をなんと言い表そうか? 少し時間をもらい自分のなかで咀嚼しながら私はこう答えた。
「この作品と向き合い、私の中に3つの感情が沸き起こりました。一つは『WOW、すごい!』という驚きの感情、その後に芽生えたのが『恐怖』。後戻りできない恐怖を感じました。最後にシンプルに『美しい』と思いました」
エイミーは笑顔でうなずきながら「そのエモーションがアートの言語なのよ」と教えてくれる。私の中で沸き起こった複雑な感情が「アートの言語」なのだ。
英語や日本語というテクニカルな言語ではなく人間として世界中の誰もが共通して感じる言語=エモーション。エイミーの作品はこのアート言語=エモーションで咀嚼してほしいと言う。この原稿もアート言語(驚き・恐怖・美しさ)で解釈した彼女の作品を根底に持ちながら書かせてもらうことにする。
カトリックと薬剤師の両親から得た、人間と生命への感性
彼女の作品は常に「人間性と身体」がテーマにされている。それは、幼少の頃の病床経験と親の影響が大きい。生まれつき皮膚形成不全で普通の子どものように運動できなかった彼女は「人間の治癒能力と身体拡張について」小さい頃から考えるようになったそうだ。
また、カトリックの家庭に育ち教会に通い、イエス・キリストの十字架にかかるアイコンや聖廟に祀られる骨などを崇める信者たちの姿を見て、イエス・キリストの“骨”という存在に宗教心が宿る現象に興味を持ったとも言う。また、彼女の両親は薬剤師なので薬剤調合など科学的アプローチで人間を治癒することも身近にあった。
「アートとサイエンスを融合した作品を作るのは、親から受け取った財産だと思っているの。教会に通い”聖遺物”を祀る人々を知り、家では薬剤師の親の手伝いをする。そして自身の病気に対して治癒を願う強い思い。この幼少の頃の経験が今の私を作り上げているんです。教会に通っていた頃の体験を科学的アプローチで再現したいと考えて作品を作っています」
そこで彼女が再現したものは、成人ドナーから採取したヒトの間葉幹細胞を植え付け培養し作り上げた「手」だった。
「手をモチーフとした理由? それは、どんなに小さいサイズだとしても、手と頭蓋骨に鑑賞者は“人間”を見出すからです。見る人に自分事として作品を感じてほしかったの。
この作品はヒドロゲルに細胞を移植し培養していますが、ここでのメッセージは「私とは何か?人間の身体とは何か?」ということ。自分の細胞が培養液の中で成長できるようになった今、脳が機能しないと人間では無くなるのか?心拍が停止するだけで人間では無くなるのか?人間の死はどこにあるのか?といった問いを、この作品を通じて考えてもらいたいのです。
例えば私が亡くなったあともこの培養細胞は生き続けることができます。自分の身体を離れて細胞が成長していくとはどういうことなのか? 私はそのような問いを持ちながら実験を進めているのです」
DIYバイオが身近になる現代、迫りうる新たな「選択」とは?
またエイミーは、近年のバイオテクノロジーの進化によって、アート作品にとどまらず我々自身もまた、これから身体拡張について真剣に考えざるを得ない現象が増えているとも語る。
「バイオ・プリンティングによる体内器官の再生(Re-generation) などが可能となってきた今、自分の骨や内臓を培養し取り替えることで寿命を伸ばすようなことも現実の話となってきています。そこで必要とされるのは、テクノロジーの進化を知ると同時に、我々は何を採用して生きていくべきかを“問う力”だと考えます」
作品を通して我々に「問う力」を試してくるエイミーだが、彼女のように作品に意味性を持ち表現し続けるアーティストは良くても、身近になった”DIYバイオアート”を悪用する人も当然出てくる恐れがある。倫理問題について彼女はどう考えているのだろうか?
「人工知能も含めたテクノロジーの急速な進化により、世界全体で倫理問題を考えていくべき時代に突入しています。映画だとハッピーエンドに終わるけど、現実はそうもいかない。我々が進む先がユートピアなのか、ディストピアなのか? 誰がそのテクノロジーを使うのか? 使い手の人間性も問われる時代だと思います。
私はシリコンバレーに近いサンフランシスコに住んでいるので、テクノロジーの進化、変革の速さは実感しているけど、ただ、その変化が「人間の認知」に影響を与えているのかもまだ誰も解明できていない。注意しなくてはならないのは、一度使用してしまうとあとには戻れないこと。私たちの想像以上に進化は早いことを意識する必要もあります」
「アート言語」で人々に訴えかけ、また倫理観についても考えてもらう機会として作品を提示するエイミーだが、この作品を誰に見てもらい、考えを変えてもらいたい(Change the mind)と思っているのか、最後に聞いてみた。
「誰かの意識を変えたい(Change the mind)ではなく、多くの人の意識をオープンにしたい(Open the mind)と考えています。日常生活では感じない様々なアート言語=エモーション(怖い、美しいなど)を感じてもらい、人間としてのこれからの在り方を考える機会としてもらいたいと思っています」
あらゆるものやことの選択肢が増えた時代であることは常々実感しているが、いよいよ身体の範囲をどこに設定するのか、自分でそれらが選択できる時代に突入している。大切なのは選択の根拠や意思を明確に持てるかどうかである。本稿が「自身の身体拡張」の範囲を考えるキッカケとなれば幸いである。
CREDIT
- TEXT BY MARIKO NISHIMURA
- 株式会社HEART CATCH / 代表取締役、プロデューサー。テクノロジー×デザイン×マーケティングを強みにプロデュース業や編集、ベンチャー向けのメンターを行う。Mistletoe株式会社フェロー、日本テレビSENSORS.jp編集長。モデレーターやライターとしても活動。カバー領域:人工知能、ロボット、テクノロジー×ファッション、VR / AR、デザイン思考、など。 http://heartcatch.me/