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2016.10.04

アート×サイエンスの実践と、欧州拠点のクリエーションスタイル:黒川良一インタビュー(後編)

TEXT & INTERVIEW BY SATOSHI HATTORI,INTERVIEW BY ARINA TSUKADA

ベルリンを拠点にオーディオビジュアル表現の最前線を走り続けるアーティスト、黒川良一。新作《unfold》について尋ねた前編に続き、近年のアート×サイエンスの実践や、ヨーロッパでアーティストとして活動を続ける、自身の制作環境について語ってくれた。

自然を再構築する、アート×サイエンスの実践
renature::insecta #2 [ prototype ]
Ordered Disorder, Espacio Fundacion Telefonica, Lima, 2015
Courtesy of Fundacion Telefonica

「自然の再構築」をテーマにした《renature》(2015)という作品群では、生物のもつ構造体をミニマルに抜き出す手法をとられていますね。

黒川:ぼくはこれまで、現実の風景などを撮影した映像をもとに、コンピュータ上で景色の輪郭部分を線で抽出するといった手法を展開してきましたが、《renature》はそのアプローチを物質化させたものだといえます。自然や動物のストラクチャーをパーティクルとラインのみに抽出して、再構築することで新たな視点を見出した作品です。

これまではコンピュータ上で緻密に描写していたものが、3Dプリンタなどによってマテリアライズ可能になった例は多々ありますが、現実化させる上で難しいことはありませんでしたか

黒川:もちろん大変な部分もありますが、基本的な手法としてはそんなに変わらないです。本当は人体スケールにしたかったのですが、こうしたプロダクトは予算やプランとのバランスがキモになるのでなかなかタフな作業でもありますね。その一方で、こうしたマテリアライズの作品であっても、データドリブンの作品であっても、自分のスタイルはあまり変わらないんだな、という再発見にもなりました(笑)。

今回のようなアート×サイエンスの取り組みについては、どう感じていらっしゃいますか?

黒川:普段サイエンスになじみの薄い人にとっては、こういった作品が科学への興味の入口になるなど、ある種の教育的な観点もあると思います。

一方で面白かったのは、科学者たちがアーティスト側のささいな思いつきや、制作における小さな行為一つひとつに驚いてくれること。今回のようなぼくの表現は、研究においてはムダなことを試しているのですが、それをすごく面白がってくれて。もしかしたら彼らが普段行っているデータのビジュアライズよりも、もっと豊かな発見に満ちた表現があるのではないかと語ってくれました。サイエンスの領域からは一見ムダと思えるような視点を与えることが、アーティストの関わる意義のひとつだと思いました。

ここ最近は、ヨーロッパでもこうしたアート×サイエンスの企画が非常に多くて、世界的にもホットなトピックなんだと感じています。

Photo of sample for 《renature:: arachnida #1》

そうした社会的トレンドに対してはどう感じていらっしゃいますか?

黒川:ぼく自身はあまりトレンドに詳しくないので主観でしかありませんが、アート×サイエンスの融合は、どうしてもアウトプットがアートのみになってしまいがちですよね。だから現時点のコラボレーションは、アートの領域にサイエンスを持ち込んでいるに過ぎないとも思います。サイエンティストがアートイベントに出ることはあっても、アーティストがサイエンスの領域で活動するような事例はありませんよね。アートがサイエンスに影響を及ぼすような実践が出てくると面白いと思います。

実際のところ、科学者たちの中でアートに興味がある人たちにとって、純粋にアート作品を作りたいのか、それとも自分たちの専門領域へ何らかのフィードバックを得ようとするのか、モチベーションは人それぞれだと思うので、個人的にも気になるところではあります。

コンフォタブルな制作環境を求めて

黒川さんの制作環境についてもお伺いします。以前はベルギーのCimaticsというエージェンシーに所属し、美術館やフェスティバルなどから委嘱作品的に依頼を受けて作られていましたね

黒川:いまはエージェンシーから依頼を受けているというよりも、自分のスタジオを構えて、Cimaticsのディレクターがぼくのスタジオにプロデューサーとして加わっています。仕事のやり方はほとんど同じですが、内部的な事情が変わったという感じですね。

その立場の変化は、アーティスト側である程度コントロールできるようにしたかったということでしょうか。

黒川:いままでもうまく回っているという実感があったのでそういう訳ではなく、Cimatics自体がちょうど設立10年を迎えて、次のシフトに移ったという方が正しいですね。うちのプロデューサー自身はフリーランスなので、ほかのアーティストスタジオのマネジメントやアートイベントのオーガナイズやキュレーションも独自で行っています。ヨーロッパにはこうしたフリーのプロデューサーが多いんです。

役割分担としては、多数のオファーをふるい分ける部分はプロデューサーに一任して、取捨選択された企画から黒川さんの作業をスタートすることで、制作に集中できるということでしょうか。

黒川:その通りです。どうしてもアーティストはビジネスや金銭面の話が苦手になりがちなので、そうした部分はプロデューサーと組むのがベストです。ただ、特にフォーマットは決めずに、その都度で最もコンフォタブルなかたちを目指して常に流動的に動いていくのが良いのかなと思っています。

そうしたメディアアート、デジタルアート領域におけるスタジオ制度は、日本ではあまり例が多くありません。スタジオ化することで、単なる効率化を求めるに限らず、相乗的にクリエンションの質を上げていくことが求められそうですが、ヨーロッパ周辺ではどんな形態が多いのでしょうか?

黒川:さまざまなケースがあるので一概には言えないですが、フェスティバルのオーガナイザーから、アーティスト個人のマネジメントを行うプロデューサーまで、フリーランスで自由に動いている人が多い印象を受けます。また、クリエーションには関わらず企画の進行や契約だけを進めるプロデューサーも数多く存在しますが、ぼくのスタジオの場合は、プロデューサー自身にもテクニカルの知識がある程度あるので、クリエーションの相談をはじめ、よりパーソナルな関係で付き合っていると思います。

ことメディアアートの領域に関しては、会社でチーム体制を組む中で作品を制作したり、シアターピースを作って巡業したりする規模の作品にはプロデューサーが立つケースもありますが、それ以外は個々の作家が直接ハンドリングしているケースがほとんどです。アートワークとビジネスにどう折り合いを付けるかがこれからの課題だと思います。

黒川:そうなんですね。日本とヨーロッパを行き来するようなプロデューサーがいるとか、新たな循環が起きるといいでしょうね。

また、巡回展示も多いと思いますが、サイトスペシフィックなインスタレーションを毎回インストールしていくにあたって、課題となることはありますか。

黒川:基本的なテクニカルの指示はその都度ガイドラインとなるテックライダーを作っています。ただそれも、1、2回の展示では作りきれなくて、やはり現場に立ち会っていく中で、どの部分に支障が出るのか、どうすれば現場スタッフにうまく伝わるかを覚えていく中でブラッシュアップしています。

妥協というわけではないですが、フェスティバルや会場の性質の影響を受けざるを得ない部分と、作家として「ここだけは守りたい」という部分の両面を考えられたりするのではないでしょうか。

黒川:そうですね。ただ、火事場の馬鹿力というか、自分が予期していなかったようなスペースが用意されていたときに、作品が想像以上のパワーを発揮するということもあります。もちろんインスタレーション作品は精密に計算していきますが、スペース自体が作品に新たな力を与えてくれることもあります。

今後の活動予定を教えてください。

黒川:年内に韓国のGwangjuにできたアートセンターのために大規模な作品を用意しています。60m x 20m、高さ20mの大きい部屋なので、過去作の中でも最大規模の作品になると思います。作品が大きすぎるので、運搬方法がいま一番の課題ですね。

最後に、今後の野望などがあれば……。

黒川:野望は、特にないです(笑)。マイペースにやらせていただいているので、この調子で続けていければな、と思っています。

 

RYOICHI KUROKAWA
1978年、大阪生まれ。ベルリン在住。現代美術、メディアアートの分野で活動。マルチチャンネルの映像、音響の3次元的な現象により、新しい共感覚的体験を導く作品を制作している。1999年よりビデオおよびサウンド作品の制作を開始し、以来映像、音楽をとりまく国内外の様々なアートフェスティバルにおいてインスタレーション展示、オーディオビジュアル作品のスクリーニングを行う。『rheo: 5 horizons』がアルス・エレクトロニカ2010のDigital Music & Sound Art部門で大賞にあたるGolden Nicaを受賞するなど、国際的な評価を得ている。
http://www.ryoichikurokawa.com/

 

CREDIT

Hattori
TEXT & INTERVIEW BY SATOSHI HATTORI
エンジニア。IAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)、東京芸術大学大学院映像研究科修了。東京のオーディオビジュアル表現を開拓するプラットフォームBRDG共同運営。電子音楽、オーディオビジュアル領域を中心に執筆/通訳/翻訳も手がける。 http://brdg.tokyo
 dsc0476
INTERVIEW BY ARINA TSUKADA
「Bound Baw」編集長。編集者、キュレーター。「領域を横断する」をテーマに、編集・執筆、企画、キュレーション、モデレーターなどで幅広く活動する。2010年、サイエンスと異分野をつなぐ「SYNAPSE」を若手研究者と共に始動。12年より、東京エレクトロン「solaé art gallery project」のアートキュレーター。編著に『マリー・アントワネットの嘘』(講談社)『メディア芸術アーカイブス』『インタラクション・デザイン』(BNN新社)、ほか「WIRED」など執筆歴多数。 http://arinatsukada.tumblr.com/

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「Bound Baw」は大阪芸術大学アートサイエンス学科がプロデュースする新しいWebマガジンです。
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