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2016.10.04

宇宙物理学×オーディオビジュアルの挑戦《unfold》黒川良一インタビュー(前編)

TEXT & INTERVIEW BY SATOSHI HATTORI,INTERVIEW BY ARINA TSUKADA

ベルリンを拠点にオーディオビジュアル表現の最前線を走り続けるアーティスト、黒川良一。2000年代初頭よりサウンドアーティスト/VJとしての活動を始めた後、視覚/聴覚の共感覚的表現を模索する独自のオーディオビジュアル表現を開拓するようになる。今回、宇宙物理学者とコラボレーションした新作《unfold》について、アート×サイエンスの実践にまつわるストーリーを尋ねた。

黒川良一という日本人アーティストをご存知だろうか。2010年にはインスタレーション作品《rheo: 5 horizons》でアルスエレクトロニカDigital Musics & Sound Art部門でゴールデン·ニカ(大賞)を受賞するなど、世界的な評価を獲得。ベルギーに2年、その後ベルリンに拠点を移してからは、世界各都市のミュージアムやフェスティバルにて、インスタレーション、スクリーニング、コンサート上演など作品コンセプトと制作技法に合わせた様々なアウトプットを披露し続けてきた。

中でも、今年発表された作品《unfold》は、宇宙物理学者による観測データやシミュレーションデータをモチーフに、視覚、聴覚に加えて触覚(振動感覚)を刺激する複層的なコンポジションを構築し、黒川ならではの新たな「共感覚的表現」のあり方を提示した。

その制作プロセスを経て、現在黒川が考えるアーティストとサイエンティストの協働のあり方とは、そして理想とする制作スタイルとはどのようなものなのだろうか。

《unfold》 FACT, Liverpool, 2016
Courtesy of FACT, Photo by Brian Slater 
星の生成データをデフォルメする

黒川さんの最新作《unfold》はイギリス·リバプール市のFACT(Foundation for Art and Creative Technology)で発表されていましたね。これは、星の生成に関するデータをモチーフにされたとのことですが、具体的にはどんな作品なのでしょうか。

黒川良一(以下、黒川):ひとことで言えば、星がどのように形成され、また消失していくかを表現した作品です。宇宙物理学者たちからは星の形成に関するデータをもらって、それを元に制作しています。

そのきっかけは、フランス·ナント市のメディアアートのフェスティバル「Scopitone」を主催する「Stereolux」という機関からの依頼でした。Stereoluxはメディアアート全般のプロデュースを中心に活動する一方、「CEA」というフランスの物理学の研究機関とのつながりから、アート×サイエンスのプロジェクトがこの数年間で続けられてきたんです。ぼくのところにも打診自体は3年ほど前からあったのですが、ようやくコンディションが整い、今回のコラボレーションが実現しました。

はじめはどんな依頼があったのでしょうか。

黒川: はじめに向こうから提示された依頼は、宇宙物理学者の研究する「Molecular Cloud(分子雲)」のデータを使えないかということ。分子雲とは成分のほとんどが水素分子でできた星雲の一種で、星を形成する「星のゆりかご」とも言われているものです。調べてみると興味は湧いてきたのですが、はじめはやりにくい印象でした。もっとより多くのデータ、とくに時間軸をもったデータがある方が、映像化させやすい、という話をさせていただいて。今回はほとんどがCEAから提供されたデータと、一部NASAのデータを使って構成しています。

「科学者たちも嘘をつく」

《unfold》では単純にサイエンスのデータをビジュアライズしたのではなくデータを「再構築」あるいは「破壊」したと別のインタビューでも発言されていましたね。

黒川:単純なデータのビジュアライゼーションやソニフィケーション(可聴化)は、科学者たち自身が普段からやっていることなので、改めてぼくがやる必要はないと思いました。そこで、たとえば普通は線形に表現すべきデータをリズミックに処理してデフォルメするなど、よりデータのもつ情報を誇張させるような映像を展開しています。

たとえば、星の運動などといった、日常では人間が認知できないスケールやダイナミクスにフォーカスしたということでしょうか。

黒川:そうですね。星の形成に関していえば、時間軸をデータ通り守っても美しくないので、時間のスケールの方法は自分なりにデフォルメしています。また、ひとつの星の形成に限らず、太陽や複数の惑星のデータも用いています。

星が生まれ、死んでいくまでの壮大な時間は、ぼくたちが生きている時間軸に到底追いつきません。そこで、たくさんの星の観測データやシミュレーションデータをつなぎ合わせ、そのプロセスを尺8分の映像内に落とし込んでいます。

Courtesy of Ryoichi Kurokawa

アーティストとサイエンティストが協働する上で、科学のデータをどう扱うかは大きな争点になったのではないでしょうか。

黒川:何よりこの企画は、Vincent Minierという研究者がアートに関心がある人だったということが大きいですね。他の物理学者たちは研究以外のことにそこまで熱心ではなく、なかなか締切を過ぎてもデータがもらえなかったり、お互いに妥協できなかったりすることも時にはありました。

Vincentたちと議論したのは、いわゆる科学的なアウトプットを避けながら、どこまでを許容範囲と設定するかという点です。色々と協議を重ねましたが、結果としてVincentには「自由にやってくれ」と言われたんです。なぜなら、「科学者たちも嘘をついている」からだと。たとえばハーシェルなどの宇宙望遠鏡においても、受け取った電磁波のデータは、人間の可視光に落とし込むため、便宜的に着色しています。

その画像は、本来は人間の目には見えないものであり、科学者たちの意図に合わせた嘘のビジュアルだとも言える、と。そうであれば、アーティストはもっとデータをデフォルメさせて、オリジナルの表現に落とし込んだ方がいいだろうと言ってくれたんです。そこからは大分自由に発想できるようになりましたね。

あらゆる感覚刺激をコントロールしたい
《unfold》 FACT, Liverpool, 2016
Courtesy of FACT
Left : Photo by Jon Barraclough
Right : Photo by Brian Slater

今回の作品には「振動」があったそうですね。これは聴覚/視覚を刺激してきた過去作品に、さらに触覚を加えたものと言えるのでしょうか?

黒川:今回は、音を振動に変換するトランスデューサーを用いて、フロアを振動させています。6chサラウンド+1chサブウーファー+1chトランスデューサーで「6.1.1チャンネル」という構成ですね。これによって低音が鳴っていなくともトランスデューサーの振動によって音を感じるような、不思議な感覚を与えられたと思います。会場では寝転んで振動を感じている人も多かったですね。

一般的にぼくたちが普段生活の中で得られる情報量の90%以上は、オーディオビジュアル(視覚/聴覚)によるものだと言われています。そこに触覚の要素も足すことで、アートが人間の知覚に与えられる力をより拡張できればと思いますね。

テクノロジーによって「新しいリアリティを作る」という点において、振動以外にも興味のある感覚はありますか?

黒川:五感のすべてに影響を与えられたら面白いですね。複数の感覚から同時に脳を刺激してみたい。一方、最近のブームでもあるVR関連のオファーが来ることも多いのですが、ぼくの作品はVRのような一人ひとりへの個別のアプローチではなく、どちらかというと、複数人が同時に共有可能な「現象」の方に興味があります。

ぼくのテーマとする「共感覚」にしても、その知覚自体は一人ひとりの内部で起こることですが、ぼくがやっていることは「共感覚的」な表現であり、みんなでシェアできる共通認識を作ろうとするアプローチなんです。(後編につづく)

©Ryoichi Kurokawa

 

CREDIT

Hattori
TEXT & INTERVIEW BY SATOSHI HATTORI
エンジニア。IAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)、東京芸術大学大学院映像研究科修了。東京のオーディオビジュアル表現を開拓するプラットフォームBRDG共同運営。電子音楽、オーディオビジュアル領域を中心に執筆/通訳/翻訳も手がける。 http://brdg.tokyo
 dsc0476
INTERVIEW BY ARINA TSUKADA
「Bound Baw」編集長。編集者、キュレーター。「領域を横断する」をテーマに幅広く活動する。サウンドアーティストevalaのサウンドプロジェクト「See by your ears」マネージャー。2010年、サイエンスと異分野をつなぐ「SYNAPSE」を若手研究者と共に始動。12年より、東京エレクトロン「solaé art gallery project」のアートキュレーター。編著に『マリー・アントワネットの嘘』(講談社)『メディア芸術アーカイブス』『インタラクション・デザイン』(BNN新社)、ほか「WIRED」など執筆歴多数。 http://arinatsukada.tumblr.com/

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