• TOP
  • WORLD-TOPICS
  • メディアアート×土着の奇祭。市原えつこが挑む「仮想通貨奉納祭」の野望とは

WT

2019.10.31

メディアアート×土着の奇祭。市原えつこが挑む「仮想通貨奉納祭」の野望とは

TEXT BY ETSUKO ICHIHARA

土着の日本文化と現代のテクノロジーを交錯させるメディアアーティスト、市原えつこが新たな奇祭を企てている。その名も「仮想通貨奉納祭」だ。これまでも死者のゴーストをPepperロボットにインストールさせたり、都市にデジタルなまはげをよみがえらせたりしてきた彼女が、次に挑むのはキャッシュレス時代の奉納だ。11月9〜10日に開催を予定している祭を前に、本人がその野望を語る。

キャッシュレス時代の新しい奇祭、「仮想通貨奉納祭」

BoundBawでは度々の寄稿でお世話になっております、メディアアーティストの市原えつこと申します。この度新作プロジェクトを立ち上げたところでして、編集長の塚田さんに「野望を書き連ねていいよ」とご許可をいただいたので、ありがたく筆をとらせていただきます。

この度、キャッシュレス時代の新しい奇祭「仮想通貨奉納祭」を開催するための資金を、クラウドファンディングサービス「Readyfor」を通して募集しました。おかげさまで多くの皆様からご支援をいただき、最終的に当初目標の140%を超える達成額となりました(本当にありがとうございます!!) さらにはプラチナスポンサーとしてデジタルハリウッド大学大学院様のご協賛も決定しました。

キャッシュレス時代の新しい奇祭、「仮想通貨奉納祭」爆誕₿

企画者の市原はこれまでも日本独自の文化とテクノロジーを融合させる作品を制作し続けてきました。近年は人類の根源的な営みである「奇祭・祝祭」に強い興味を持ち、ISIDオープンイノベーションラボとの共同プロジェクトとして秋田県男鹿市のナマハゲ行事を東京に移植する「都市のナマハゲ」を制作するなど実験を重ねてきました。その集大成として、2019年11月、都内の商店街にてオリジナルの奇祭「仮想通貨奉納祭」の開催に挑戦します。

第11回恵比寿映像祭「トランスポジション 変わる術」展示より
提供:東京都写真美術館/撮影:新井孝明

この祭りでは主に、
・仮想通貨で世界中からコインを奉納できるシステムを搭載した神輿

・バイオテクノロジーを用いて制作した御神体

・ロボットによる祝詞や舞・神楽の奉納


など、現代的なテクノロジーを融合させ独自解釈した神事をふんだんに取り込みます。
世界中から仮想通貨を集めてリアルタイムに神輿に反映させ、そして集まった仮想通貨は「土地の豊穣」のために再分配する……という前代未聞の奇祭を開催します。


 

本件について、以下、編集長塚田さんから頂いたご質問に回答するかたちで野望を書き連ねます。

なぜ現代において「奇祭」なのか?
そこにテクノロジーが融合することで何が起こるのか?

私が奇祭に強い関心を持ったきっかけは、会社を辞めて間もない2016年、フランスの写真家シャルル・フレジェ氏の個展「YOKAI NO SHIMA」を観たことです。その後、全国各地の祭りを色々と調べていくにつれ、奇祭・祝祭が醸し出す、近代の倫理や常識を超えた、人類の根源的な生命力のようなものに無性に心惹かれていきました。

 

もともと学生時代に、歌舞伎町の浄化政策や新宿のホームレス排除をはじめ、現代社会において「近代社会の規範から外れる、適切ではない人間のあり方」が「社会におけるノイズ」として過度に排除・隠蔽されている状況への怒りや危機感を感じていました。人間の本能・狂気といったものが封じられることは表面的にはクリーンで安全な社会をもたらしますが、その結果として、時たま発生する極度に残虐でグロテスクな刑事事件などに繋がっているのではないかと……(他媒体ですが、こちらのインタビューには本当に共感しました:吉岡忍さん「なぜ、彼は人を殺したのか」)

こういった近代の常識や倫理観に抵抗する手段のひとつであり、人間の本能的な側面や暴力性が平和に表出・発散されるのが奇祭だと私は考えています。

 

どんどんクリーンになり検閲され、均質化していく社会。インターネットやSNSを介してすべてがオープンになり、あらゆる情報が咀嚼しやすく、わかりやすくなっていく社会。その中でも人は潜在的に「私たちの理解を超えた何か」を求めていると感じており、「YOKAI NO SHIMA」をみて私が感動したのはそういった「何か」が詰まっていたからだったのかもしれません。

 

しかしこれらの奇祭は過疎による後継者不足も問題になっており、このままだと衰退していくのではという懸念がありました。これら多様な価値のある文化を次の100年も残していくために、アップデートを試みたい。価値のある伝承を形骸化した伝統や死んだ文化遺産ではなく、生の文化として次の100年も続かせていきたい。グローバリゼーションの流れの中で、ともすれば排除されていってしまいそうなこの価値のある奇妙な資産を未来に残すためにリデザインしたい……というモチベーションでテクノロジーとの融合を今回試みています。

なぜ仮想通貨に着目したのか?

仮想通貨がこれからの時代のあり方を象徴する重要なシンボルのひとつだと思っているからです。まだまだ粗も多く、関連サービスでは事故や炎上も多いのですが(コインチェックのハッキング事件、VALUでの有名YouTuberの炎上事件など枚挙に暇がない)、資本主義に代わる、感情で回っていく新たな経済のあり方、国境を超えて速やかに流通していく貨幣のあり方など、これまでにない経済や社会基盤の礎になるものだとも感じており、それを用いて小規模な実験をしてみたいと思いました。物々交換、米や稲、物理的な貨幣……などと、時代とともにどんどん移ろっていく「価値交換」のあり方を、改めて柔軟に考え直すためのツールになるのではないかと。

 

投げ銭には、基本的に価格の急増・急落が不安定になりやすいアルトコインではなく、最も汎用性・安定性の高いビットコインの利用を検討しております。しかしクラウドファンディングの公開とほぼ同時期に「信教の自由のためには匿名制が重要」という京都仏教会による「キャッシュレス決済」への反対声明が発表され、この「信仰の匿名性」という概念は非常に興味深い論点だと感じました。初回である今回はビットコインのみ受付となりますが、今後の開催においては匿名性を担保したい方についてDASH、Monero、Zcashをはじめとしたブロックチェーンで追跡不可能な、プライバシーを保護する匿名性暗号通貨を受け入れる可能性もございます(送金元がわからないため、物理的に参拝が必要な現金の参拝以上に匿名性が高い)。

 

本件について現役僧侶の方(浄土宗善立寺・こうじりゅうじさん)ともSNSを介して意見交換をさせて頂きましたが、paypayやLINE payなど一部のキャッシュレス決済は宗教法人の寄付行為に対して利用が不可能であること(メルペイはOK)、また例えば縁結び・安産祈願の神社に参拝した決済履歴が関連企業のターゲティング広告に利用される懸念もあり、「胸に秘めている願い事」というパーソナルな情報の流出リスクがあったりもするそうで、両手を上げて神社仏閣でキャッシュレスを推進すべし!と言い切れない事情があることを理解しました。

ただ、いまのところ仮想通貨による世界各地からの神社仏閣への寄付行為に関しては(前述の匿名性の担保や税務面をしっかりケアすれば)、資金繰りの難しい宗教施設の新たな収入窓口になりうる有効なものだと考えており、私個人としては大いに可能性を感じています。

なにかと誤解を受けそうな取り組みでもありますが、基本的に「既存の伝統に価値はないからつくり変えてしまおう」ではなく、「既存の価値のある伝承・伝統を現代に即したかたちで継続しやすくするためには、どのような手段があるのか探ってみよう」というスタンスです。いずれにせよ仮想通貨での投げ銭は現時点で伝統・格式のある神社仏閣でのいきなりの導入は難しいことが予想されるため、まずは特定の信仰・宗教と結びついていない無所属のアーティストが一般の商店街を舞台に実証実験をし、これから導入するにあたってのリスクや可能性、是非をより具体的に議論していくための前例・たたき台になるひとつの事例になればと思っております。

アルスエレクトロニカ出展などの海外展開を経て感じた、
テクノロジー×奇祭の取り組みを「日本から」発信する意義とは?

アルスエレクトロニカでの展示などを経て、アニミズムなど日本独自の価値観や生命観は西欧社会でも注目され直していることを実感しました。ロボットやAIというトピックひとつとっても、AIに対して恐怖・驚異を感じる北欧と、友達のような牧歌的なイメージを抱いている日本人の価値観は大きく異なります。そのため、あえて均質的なグローバルスタンダードの価値観に寄せず、土着的な価値観まるだしのプロジェクトを国際発信しようと思いました。

農村で行われる豊作を祈願した民族行事は日本だけでなくヨーロッパをはじめ世界各地で行われ、外見は違えど本質的には似通っている部分も多いです。奇祭は極めてローカルであると同時にグローバルである、不思議な性質を持っています。日本的であると同時に、さまざまな国で形を変えて行われている奇祭が異国でどのように受け取られるのか、非常に興味深く実験してみたい部分です。

Photo: Vanessa Graf / Ars Electronica

基本的には伝承や伝統文化を愛している者なので、それがさらに良い方向に向かい、未来にも廃れずに継承されていくためのヒントづくりを目的にしております。これからの倫理観や経済、コミュニティや祝祭のあり方、それを小規模に実験するひとつのユースケースや前例としてお使いいただけるものになればと思っています。

しかし同時に「自分自身がめちゃくちゃその光景を見てみたいからやる」という動機も大きいです。極めてプライベートな欲望にお付き合いをいただき恐縮ですが、そのぶんめちゃくちゃ楽しく、そしてこれからの社会を考えるための材料になるような奇祭にすべく全力投球するので、ぜひお力を貸していただければ幸いです!

仮想通貨奉納祭・開催概要

本年の開催場所としては、戦前から続く昔ながらの元気な商店街「川島商店街」で開催します。電子いけばな、超能力射的、以前にBoundBawでも取材したエレクトロニコス!ファンタスティコスから派生したラボ「ニコス・オーケストラボ」による古家電電磁祭り囃子、人力で仮想通貨をマイニングするマシンなど、祭りや仮想通貨にちなんだ作品も多数出展します。当日はフランクフルト、月見うどん、たこ焼き、射的など商店街の屋台も15店舗ほど出店予定。来訪神や妖怪の仮装での参加も大歓迎です。

 

仮想通貨奉納祭(東京行灯祭と併催)

■日時 11月9日(土)・10(日) 16:00~21:00
■場所 川島商店街全域(東京メトロ丸ノ内線「中野新橋駅」より徒歩8分)
■住所 東京都中野区 川島商店街  〒164-0013 東京都中野区弥生町3丁目14−6
Googlemapで見る

荒天中止 出入り自由、参加費無料

 

Webサイト:http://virtual-currency-festival.com
Readyforページ:https://readyfor.jp/projects/kisai
Facebookイベントページ:https://www.facebook.com/events/1273038049546767

当日ビットコイン奉納用ウォレットのご案内

お祭り当日はこちらのQR&アドレスにて、ビットコインのご奉納を受け付けております。神輿行列はお祭り両日の18:30-19:15に商店街を行脚予定です。この間に送金をすると、リアルタイムで神輿行列の現場にあなたが送金したビットコインが影響し「ワッショイ・セレブレーション」なるスペシャル機能も発動されるかも。皆様のビットコインのご奉納を心よりお待ちしております。

 

ビットコイン送金先アドレス:18BNXj5Ngct9tbpws25xLx5kk4aGzyiXWV

 

●お問い合わせ /市原えつこ
Mail: mojarin@gmail.com
http://etsuko-ichihara.com/

 

 

CREDIT

Estuko
TEXT BY ETSUKO ICHIHARA
アーティスト、妄想監督。1988年、愛知県生まれ。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系卒業。日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解き、テクノロジーを用いて新しい切り口を示す作品を制作する。アートの文脈を知らない人も広く楽しめる作品性から、国内の新聞・テレビ・Web媒体、海外雑誌等、多様なメディアに取り上げられている。主な作品に、大根が艶かしく喘ぐデバイス《セクハラ・インターフェース》、虚構の美女と触れ合えるシステム《妄想と現実を代替するシステムSRxSI》、家庭用ロボットに死者の痕跡を宿らせ49日間共生できる《デジタルシャーマン・プロジェクト》などがある。 http://etsukoichihara.tumblr.com/

page top

ABOUT

「Bound Baw」は大阪芸術大学アートサイエンス学科がプロデュースする新しいWebマガジンです。
世界中のアートサイエンスの情報をアーカイブしながら、異分野間の知見とビジョンを共有することをテーマに2016年7月に運営を開始しました。ここから、未来を拡張していくための様々な問いや可能性を発掘していきます。
Bound Baw 編集部

VISION

「アートサイエンス」という学びの場。
それは、この多様で複雑な時代に「未来」をかたちづくる、新たな思考の箱船です。
そして、未知の航海に乗り出す次世代クリエイターのためのスコープとして、アートやデザインなどの表現・文化の視点と、サイエンスやテクノロジーの視点を融合するメディア「バウンド・バウ」が誕生。境界を軽やかに飛び越えた、冒険的でクリエイティブな旅へと誘います。

VISUAL
CONCEPT

サイトトップのビジュアルは大阪芸術大学の過去の卒業制作の画像データを、機械学習技術によって作品の特徴を捉えた抽象化されたデータに変換し、その類似性をもとづいて3D空間上に分布させることで構成されています。これは、これまで学科という枠組みの中からその表現方法が考えられてきた従来の芸術教育に対して、既存の枠組みを取り払い、より多角的で新たな視点(=アートサイエンスの視点)をもって、大阪芸術大学を再構築する試みのひとつです。

STAFF

Editor in Chief
塚田有那
Researcher / Contributor
森旭彦
原島大輔
市原えつこ
yang02
服部聡
Editorial Manager
八木あゆみ
制作サポート
communication design center
Rhizomatiks
STEKWIRED
armsnox
MountPosition Inc.
close

bound baw