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2018.06.20

未来は自分たちの手でつくる。|YCAMスポーツハッカソン&未来の山口の運動会レポート(後編)

TEXT BY NATSUKO NOMURA

2日間のハッカソンによって生み出された新たな運動会種目は、最終日に約250名の参加者と共に「運動会」として実際に競技することで完成を迎えた。開発者たち(デベロップレイヤー)の苦労が報われるほど、真剣にゲームをプレイし熱狂とにYCAMのホールが包まれた運動会レポート。前編はこちら

スペースマンシップに則る運動会

「選手宣誓!我々、未来の運動会参加者一同は、スペースマンシップにのっとり、デベロップレイヤーとして新しい種目を楽しく真面目にプレーすることを誓います」

Photo by Kosuke Shiomi
Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

万国旗が飾られた山口情報芸術センター、通称YCAM(ワイカム)の会場に響くスポーツマンシップならぬ「スペースマンシップ」の宣誓から「未来の山口運動会」は幕を開けた。スポーツハッカソン発案者の犬飼博士が考えた「スペースマンシップ」とは、人生をかけてゲームやスポーツで遊び続ける全人類へのメッセージだ。「人間だけでなく地球や宇宙も尊重しよう。それらと仲良くゲームをしよう」という想いが込められている。

「未来の山口の運動会」では山口県の内外から集まった小学生とその保護者、または近隣の若者からおじいさんまでが様々な人々が集った約250名が集結。スポーツハッカソンによって開発された、できたてほやほやの9種目を運動会方式で競い合うものだ。会場に着いた参加者は4チームに分けられ、チームカラーのゼッケンを身につける。

スポーツハッカソン参加者で、種目を開発した張本人である「デベロップレイヤー」約30名もチームに混ざり、リーダとして先導しながら運動会は進められていった。各種目、開発メンバーによる説明が終わると、すぐに子供たちは飛び込み、真剣にのぞんでいく。そこにはテクノロジーの存在も忘れるほど、大人も子供も夢中になる姿があった。

さらに運動会を盛り上げるのは、東京から駆けつけたMCガッキーこと西垣峻宏。YCAMで3回、大阪&京都で2回行ってきたスポーツハッカソンをよく知るガッキーは、プロの声量と演出で参加者を熱狂の渦に包んでいった。

Photo by Kosuke Shiomi
Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]
Photo by Kosuke Shiomi
Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]
アートとスポーツの相互関係とは?

大きな歓声に包まれる瞬間があった。「ゆめゆめ★バブルフラッグ!」の決勝戦だ。

ここではバブルボールに入ったプレイヤーが足元にあるスイッチめがけて走り、ぶつかり合いながら、足元にあるスイッチを押す。数秒以上スイッチが押されると、空気を送られた人形が起き上がり、天井の鐘を先に鳴らしたほうの勝ちというゲームだ。

 

video by Atsushi Tanabe
Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

頭脳とパワーが必要とされるこの種目は、プレイヤーによって戦術の違いが明確に。最初から相手にぶつかる豪快なツワモノもいれば、スイッチにじわじわと近づいて「にらみ」をきかせる対戦者も。会場中からは、緊張と興奮の声援が寄せられる。互角のパワーで接戦が続いたが、ゆめゆめくん(青い人形)の鳴らす鐘の音が聞こえると、勝利したチームからは拍手が沸き起こった。

実は、勝利の鐘を鳴らしたこの人形、デベロップレイヤーの菅野創と、そのコラボレーターのやんツーによる作品『Avatars』で使用されたものだった。同作品はYCAM開催の展覧会「バニシング・メッシュ」で初めて公開されたもの。

菅野創+やんツー『Avatars』(2017)文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞。本作のインタビューは 過去記事 より。6月13日から、国立新美術館「文化庁メディア芸術祭受賞展」でも披露される。ちなみに、写真右奥の青い風船人形が「ゆめゆめくん」。
「バニシング・メッシュ」展覧会風景  Photo by Kazuomi Furuya
Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

展覧会では様々な日用品などの物体の中にカメラやマイクが仕掛けられており、鑑賞者はインターネットを通じて物体に憑依することで作品を体験できる「アバター」として展示されていたが、運動会ではまた違う顔を見せてくれた。この展開は作家本人にとってどう映ったのだろうか。ゲストデベロップレイヤーの菅野に話を聞いた。

「ゆめゆめくんを使うのは、もともと西翼さん(フリーランスキュレーター/YCAMスポーツハッカソンの企画主宰のほか、「バニシング・メッシュ」(2017年)のキュレーション担当)の提案でした。参加する前からいくつかアイデアを持ち寄ったつもりですが、最終的には全く違う結果になりましたね。

 

自分の展覧会のときは、レセプションで感想を聞いたり、あとからレビューを読むことはあっても、今回のように数百人の参加者が即座に反応して、ビリビリとくるフィードバックを受けるのは初めての経験でした。それにアート作品の場合、作品のメッセージは抽象度の高いまま出すことも多いけれど、ヒトが実際にプレイするゲームとなるとそうはいかない。アイデアを構築する上でとても勉強になりました」

100人でプレイする競技

続いての競技を紹介しよう。テクノ音楽に合わせて四角い枠の中を100名近い人たちが列になって歩く「痕跡を残すな!テクノスネーク」だ。この開発チームには、一見殴り合いのような即興身体パフォーマンスで知られるコンタクト・ゴンゾも参加していた。

 

Video by Atsushi Tanabe
Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

先頭と最後尾の人だけセンサー付きのヘルメットをかぶり、モーションキャプチャで歩いた軌跡を床面に映し出す。先頭の人は軌跡をつくり、最後尾の人はそれを消す役割を持つ。しかし、床面のプロジェクションは競技途中で消されるため、中央にいる98人は、前の人が歩いた道を正確に辿らなければ、最後尾の人が線を消せなくなってしまうというゲームだ。

Video by Atsushi Tanabe
Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

審査員を務めたメディアアーティスト/研究者の江渡浩一郎によると、「そもそも、どう使うかを決めないで作った機能をちゃんと遊べるゲームにするのはとても難しい」と見解を寄せる。「この競技には、全員がうまく体を使わないと得点が取れないというゲーム性の高さもありました。競技として素晴らしいデザインです」と評した。

コンタクト・ゴンゾの塚原は「競技性の高いものだけではなく、よくわからない要素をちょっとずつ混ぜてみました。小学生でも楽しめるように意識した」と語る。

競技の開発を行うコンタクト・ゴンゾの塚原
Photo by Kosuke Shiomi
Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]
フィナーレを飾ったテクノ盆踊り

運動会もいよいよフィナーレに。山口市民にはお馴染みの盆踊り「大内のお殿様」からリメイクされた「踊れぃ ワイ!キャム・盆ダンス」がスタートした。開発は、「テクノ盆踊り」で知られる岸野雄一がゲストデベロップレイヤーとして参加したチームだ。元の盆踊りを知らない人でも楽しめるように、運動会らしい振り付けが考案されている。

 

Video by Atsushi Tanabe
Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

参加者全員(およそ300人)がホールの中心に集まり、4重もの輪を作って一斉に盆踊りを踊る。初めて覚えた振り付けもすぐに覚え、振りに合わせて隣の人たちとハイタッチ。慣れてくる頃には盆踊りがテクノに変わり、BPMが早くなるにつれ、気がつけば会場は不思議な一体感に包まれていた。

Video by Atsushi Tanabe
Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

地球や宇宙を考える「スペースマンシップ」から始まった未来の山口の運動会は、山口に伝わる「大内のお殿様」を現代版にアップデートした盆踊りで幕を閉じた。積み重ねられた過去を自分たちの手によって未来へと変える。そんな思いを実感できる運動会だった。

未来は自分たちの手でつくる

最初は戸惑った様子を見せていた参加者も、実際に競技をしたり、他チームの姿を観戦するうちに、体でどんどんルールを覚えていった。子供も大人も関係なく、純粋に、そして真剣に、スポーツを楽しむ参加者の姿が見られた。

Photo by Kosuke Shiomi
Courtesy of Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

「初めて知るゲームは覚えるのが難しいけど、普段は考えながらスポーツなんてしないから面白いかも」小学生とその母親からこんな会話が聞こえてきた。

見たこともやったこともない新しいものを「自分のものにする」のは子供の得意技だ。デベロップレイヤーが想定していなかったような、巧妙な技を生み出す子も現れた。

「今日楽しかった思い出を持って帰るのと一緒に、『作る』ことにも踏み込んで考えてほしい。未来の山口の運動会は楽しかったけど、自分だったらどうやって作るだろうということに興味を持ってください。自分で考えて、作ってみる。試してみる。それを他の人に教えてみる。こういうことを、色んなところでやってもらいたいなと思います」

スポーツハッカソンを企画した西の言葉からは、未来は自分たちの手で変えられる、というメッセージが込められているように思えた。

犬飼は「未来の運動会が自分の手から離れて、みんなが勝手にどんどんやっていくようになるのが理想です」と話す。自分たちの手でつくる未来は、どのようなものだろうか。あなたの街でも、新しい運動会をはじめてみてはどうだろう?

イベント情報

YCAMスポーツハッカソン2018
2018年5月4日〜5日

http://www.ycam.jp/events/2018/ycam-sports-hackathon/

未来の山口の運動会
2018年5月6日

 

CREDIT

Nomura
TEXT BY NATSUKO NOMURA
大手カメラメーカーで事業計画を経験したのち、hpgrp GALLERY TOKYOへ転職。ギャラリー運営やアートイベントのディレクションを担当する。2014年からフリーランスになり、現在はアーティストマネジメントを行いながら、科学とアートをつなぐプロジェクトの運営、広報などを行っている。

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